土壌汚染に強い弁護士トップ > FAQ > 土地売買前の留意点について > 工場として使用していた土地を売ろうと思います。土壌を調査すると昔工場で使用していた油や有害物質が検出される可能性があると思います。このことは、売却する前に買主に説明しておくべきでしょうか。
はい。昔工場で油や有害物質をどのような態様で利用しており、売買の対象となる土地がこれらにより汚染されている可能性があるという事実を説明するべきでしょう。
不動産取引において、引渡し後の土地の地中から地中埋設物や土壌汚染が発見された場合において、瑕疵担保責任に基づく主張に次いで買主側からなされることが多い主張が売主の説明義務違反に基づく主張です。
説明義務は、契約締結の過程において、売主となろうとする者が、買主となろうとする者に対して負担する義務です。
典型的な事案としては、土地の売主が、売買契約を締結するにあたって、自ら過去に産業廃棄物などの地中埋設物を地中に埋設し、あるいは土壌を汚染しておきながら、その点を、買主に対して何ら告知・説明しなかった場合等に土地売主の説明義務違反が認められ、当該売主には地中埋設物や土壌汚染の除去費用・浄化費用等について賠償義務が課されることになります。
以下のとおり瑕疵担保責任と異なり、説明義務違反に基づく主張は、期間制限の点で買主側に有利ですし、契約関係にない者の間の義務に違反したものとして不法行為とする構成によることができますので、直接の契約当事者でなくとも主張できる場合がある(東京地判平成20年6月23日ウエストロー・ジャパン)という点でも買主側に利点があります。
主張 | 検査通知義務 | 除斥期間 | 時効 | 第三者への請求 |
---|---|---|---|---|
瑕疵担保責任 | 土地引渡し後6か月(商人間の売買の場合) | 瑕疵発見から1年 | 引渡し後10年(商事の場合は争いあり) | 不可 |
説明義務違反 (債務不履行) |
なし | なし | 権利行使可能時から10年(商事の場合は5年) | |
説明義務違反 (不法行為) |
不法行為時から20年 | 損害・加害者を知ってから3年 | 可 |
逆に言えば、売主側としては、買主側から説明義務違反を主張されるリスクをできる限り排除したいものです。
現在の裁判例を踏まえると、具体的には、以下のとおり売主に説明義務が課されると考えることができると思います。
土地の売却時の状況 | 土地の売却時に売主に 課される義務の内容 |
裁判例 | |
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① | 売主が地中埋設物・土壌汚染の存在を認識している。 | 地中埋設物・土壌汚染があることを説明すべき。 | 大阪高判平成25年7月12日判時2200号70頁、東京地判平成23年 1月20日ウエストロー・ジャパン、東京地判平成20年 6月23日ウエストロー・ジャパン |
② | 売主が地中埋設物・土壌汚染の存在の可能性を認識している。 | 地中埋設物・土壌汚染が存在する可能性があることを説明すべき。 | 東京地判平成25年1月21日ウエストロー・ジャパン、広島高判平成24年6月28日 |
③ | 売主が自ら地中埋設物・土壌汚染を発生せしめる蓋然性のある方法で土地の利用をしていた。 | 土地の来歴や従前からの利用方法を説明すべき。 | 東京地判平成18年 9月 5日判タ 1248号230頁 |
④ | 売主が買主から地中埋設物・土壌汚染の存否について問い合わせを受けた。 | 「問題ないと思う」などの不用意な回答は避けるべき。売主として土地に関して認識しうる情報を精査して質問に回答すべき。 | 東京地判平成15年 5月16日判時 1849号59頁 |
本件の売主は、「土壌を調査すると昔工場で使用していた油や有害物質が検出される可能性がある」というところまでは認識があるのですから、上記②の「売主が地中埋設物・土壌汚染の存在の可能性を認識している。」や③「売主が自ら地中埋設物・土壌汚染を発生せしめる蓋然性のある方法で土地の利用をしていた。」にあてはまります。
したがいまして、上記②及び③にしたがい、昔工場で油や有害物質をどのような態様で利用しており、売買の対象となる土地がこれらにより汚染されている可能性があるという事実を説明すべきでしょう。